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特別寄稿:本間大輔〔部活問題対策プロジェクト〕
※記事内容は寄稿者の見解であり、プロジェクト団体の
方針・見解とは必ずしも一致するものではありません。

【前回までの記事】
教員の多忙さと部活動の関係について(1):日本の教員を取り巻く現状と学校制度の成り立ち①
教員の多忙さと部活動の関係について(2):日本の教員を取り巻く現状と学校制度の成り立ち②
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔前編〕
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔中編〕
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔後編〕
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔閑話休題〕
教員の多忙さと部活動の関係について(4):「日本型学校教育」の光と影②

5.「日本型学校教育」の光と影③

◆「日本型学校教育」制度への適切な評価とは?

文部科学省は『次世代の学校指導体制の在り方について(最終まとめ)』において、「日本型学校教育」制度を高く評価して、現状維持どころか、さらに学校が様々な仕事を抱え込む方向へと舵を切ろうとしているようです。

しかし文科省自身は、教員の不払い労働の上に「かろうじて」日本の学校が成立している現状を十分に認知しているのです。

文部科学省が下したこの評価は、適切と言えるものなのでしょうか。
果たして「日本型学校教育」は、世界のどの国にも誇れるような制度なのでしょうか。

小室淑恵氏は自身の著書『労働時間革命』(毎日新聞出版,2016)で、現在の日本は経済発展を終えているため、日本より先に経済発展を終え、かつ労働生産性を低下させていない先進諸国の労働形態へと転換していく必要性があると主張しています。

労働形態を全国的に転換していくためには、「将来の労働者」を養成する学校段階からの準備が必要となります。
そうだとすれば、旧来の「日本型学校教育」制度にしがみついたままでは上手くいきません。

将来的な労働形態の転換に向けて、日本よりも先に経済発展や少子高齢化を迎えた先進諸国で成功している学校制度の成功事例に倣うことが、有効になると考えられます。

しかし、こうした議論がある一方でなお、文部科学省は「日本型学校教育」制度が“国際的”に高い評価を受けていると主張しつづけています。
文科省によるこの見解は、以下のような記述からも明らかです。

「教員が、教科指導、生徒指導、部活動指導等を一体的に行う『日本型学校教育』は、国際的にも高く評価される大きな成果。」(文部科学省『次世代の学校指導体制の在り方について(最終まとめ)<概要>』[2016]より)

また、朝日新聞の記事(2015)によれば、「日本型教育を世界に『輸出』する仕組みづくりに、文部科学省が乗り出す。規律の正しさや高水準の学力は、海外で高く評価されている。成長が見込まれるアジアや中東、アフリカの国々に幅広くモデルにしてもらい、学校法人や教育関連企業の海外進出も後押しする。」(※記事からの引用)とのことです。

しかしながら、小室氏(2016)の指摘によれば、文部科学省が制度導入の対象としているアジアや中東、アフリカの国々は、今後「アジアの奇跡」と言われる経済発展を遂げていく人口構造となっている国々ばかりです。
「日本型学校教育」制度が有益となりうる国々は一部のアジア圏に限られているのですから、文部科学省が「日本型学校教育」制度を”国際的に“という表現で、まるで全世界から高く評価されているかのように認識しているのであれば、それは大きな誤りであると言えます。

「日本型学校教育」が、膨大な量の教員への不払い労働(アンペイドワーク)によって支えられていることを忘れてはなりません。
「国際的に見て、高い評価を得ている」と見なして「日本型学校教育」を輸出するとしたら、同時に教員への長時間不払い労働をセットで輸出しなくては、辻褄が合いません。

◆教員の労働状態は「定額働かせ放題」

下の図を見るとわかるように、教員には一律に「教職調整額」として、基本給の4%が「いわゆる固定残業代と同等の役割を果たすもの」として支給されています。
これは、1日あたり20分程度の超過勤務時間分に相当しています。

教員はいわば「定額働かせ放題」の給与体系に置かれています。
これもまた、教員の長時間労働に歯止めがかかりにくい原因のひとつです。

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※文部科学省「時間外勤務に関する法令上の根拠」を参照して筆者が作成

◆「教職員の増員を提唱」 文部科学省を応援!

旧文部科学大臣政務官の堂故茂氏は、『文科省では定刻になるとチャイムが鳴るって知ってましたか?』(馳浩 他,2016,小学館)で以下のように述べています。

「日本の公教育にかける予算は、OECD諸国のなかでは低いほうなのですが、成績はトップクラスです。つまり、非常にコストパフォーマンスのいい教育制度であり、高い水準の教育制度です。」(『文科省では定刻になるとチャイムが鳴るって知ってましたか?』p.203より引用)

しかし、公教育の結果「(OECD諸国のなかで)成績はトップクラス」であるとしても、そこには膨大な量の不払い労働(アンペイドワーク)が注ぎ込まれているのです。
そして、都合のよい「定額働かせ放題」システムを見直す具体的な対策も、現状では取られていません。
堂故氏の記述も、「教員を働かせ放題なので、コストパフォーマンスが良い」という事実と矛盾していません。
これが、日本の教員を取り巻く劣悪な労働環境の元凶なのです。

ここまで見渡してみると、管見の限り、この多忙化した日本の教育現場の惨状は、制度として高く評価できるものではありません。
むしろ、多忙化によって教員の精神疾患罹患率は高まる一方です。
こうした実態を生み出す制度には改善の余地が大いにあり、手放しで高く評価してはなりません。

◆「教育の質」を保つためにも、教職員の増員を

現在、日本の子ども達に教育の質を保障する最後の耐火壁となっているのは、教員の長時間・過重労働です。
そして、それが今まさに崩壊している最中なのです。

この崩壊を食い止め、現行の「日本型学校教育」制度を高く評価できるものにするためには、大幅な教員増等の対策が急ぎ求められます。
この現状を把握してのことか、文部科学省は教職員の増員を提唱してもいます。
これについては、次世代のために、国民総意のもと全力で文部科学省を応援したいところです。

しかし、仮に増員が失敗すれば、教員数(労働力)は増えず、教員の仕事量の削減を計画せざるを得なくなります。
とは言え、これまで述べてきた通り、「子ども達の生活を丸ごと抱え込む」性質をもつ現行の教育制度のもとでは、仕事量の削減は難航することでしょう。

このように、想定されうる最悪の事態は、「日本型学校教育」制度が維持され、教員の仕事量が増え続けながら、そこにかける資源(ヒト・カネ・モノ)が増加しない場合です。
こうなってしまった場合に限っては、教員の多忙さは維持される方向へと進みます。
これは、端的に「教育の質の低下」を意味しています。

お子さんをお持ちのご家庭では、「わが子」の問題として、つまり当事者の立場から、今一度「日本型学校教育」制度のリスク(損失)とベネフィット(利益)を天秤にかけ、ご検討いただきたい次第です。

今回は、教員の多忙さが維持されてしまうメカニズムについて紹介しました。
次回から、いよいよ学校教育に部活動のあり方について深く掘り下げて考えていきます。部活動について戦後の経過を概観し、現在の教員にとっての部活動の過重負担について紹介します。
⇒記事を読む:教員の多忙さと部活動の関係について(6):部活動にまつわる思想と「顧問」が抱える過重負担 (本間大輔=文)

【参照】
・馳浩・義家弘介・富岡勉・堂故茂・豊田真由子『文科省では定刻になるとチャイムが鳴るって知ってましたか?』(2016)小学館
・小室淑恵(2016)『労働時間革命』毎日新聞出版
・文部科学省(2015)『学校や教職員の現状について』{最終閲覧日 2016.8.14}
・文部科学省(2016)『次世代の学校指導体制の在り方について(最終まとめ)』{最終閲覧日2016.8.23}
・文部科学省『時間外勤務に関する法令上の根拠』{最終閲覧 2016.8.14}
・中澤渉(2014)『なぜ日本の公教育費は少ないのか』勁草書房
・リヒテルズ直子・苫野一徳(2016)『公教育をイチから考えよう』日本評論社
・高浜行人(2015)『掃除当番・給食…日本型教育を輸出へ 海外「規律養う」』朝日新聞{最終閲覧日 2016.8.23}【※参照先リンク切れ】
・寺脇研(2013)『文部科学省「三流官庁の知られざる素顔」』中央公論新社

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