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特別寄稿:本間大輔〔部活問題対策プロジェクト〕
※記事内容は寄稿者の見解であり、プロジェクト団体の
方針・見解とは必ずしも一致するものではありません。

この連載では、さまざまなデータや文献を参照しながら「日本の教員の多忙問題」が何によって生じているのか、その核心に迫ります。
そして、学校制度が抱える「多忙問題」に大きく影を落としている「部活動」のあり方や、「日本型学校教育」の是非について問い直します。

前回までは、教員の過酷な勤務実態、日本型学校教育の是非と、その成立過程について紹介しました。
今回は、戦後に部活動が隆盛してきた経緯と、特に教員を中心として、長時間・過重労働が維持されるメカニズムを紹介します。

【前回までの記事】
教員の多忙さと部活動の関係について(1):日本の教員を取り巻く現状と学校制度の成り立ち①
教員の多忙さと部活動の関係について(2):日本の教員を取り巻く現状と学校制度の成り立ち②
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔前編〕
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔中編〕
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔後編〕
教員の多忙さと部活動の関係について(3):「日本型学校教育」の光と影①〔閑話休題〕
教員の多忙さと部活動の関係について(4):「日本型学校教育」の光と影②
教員の多忙さと部活動の関係について(5):「日本型学校教育」の光と影③

6.部活動の歴史と「顧問」の過重負担

◆今につながる部活動への期待と思想

戦後、学校で部活動が盛んになってきた背景には、世間・各種団体・行政等が部活動に寄せてきた「3つの期待」があります。

  1. 体力増強・競技力の向上
  2. 生徒の管理
  3. 道徳教育

時代によって、部活動に強く期待されるものはそれぞれ異なりますが、いずれにせよ、様々な期待が寄せられながら、部活動が盛んになってきました。
その影響を受けて、現在の部活動が存在しているのです。

しかし、部活動に様々な期待を寄せながら、複数の役割を「特に部活動に背負わせる」ことには、明確な説明がつかないのです。

実際、上記の「3つの期待」については、部活動だけがこれらを達成可能にする有効な手段であるというわけではありません。
他にも、様々な手段がありえます。例えば、以下の通りです。

  1. 体力増強・競技力の向上 → 体育の授業や社会体育(学校外で行われる体育活動)で実現可能。
  2. 生徒の管理 → 生活指導や懲戒などを駆使して実現可能。
  3. 道徳教育 → 部活動以外のすべて取り組みで実現可能。社会や家庭が担う役割でもある。

文科省は旧文部省時代から「複数の教育内容を部活動が担う必要性」について、これまで説明できないまま今日に至っています。

唯一、文科省が明示している「部活動だけでしか達成できない教育内容」は、「生徒が自主的・自発的に活動を行う」という点に尽きます。

◆部活動から失われる「自主的・自発的な活動」という存在価値

つまり、「自主的・自発的な活動」であることが、部活動の唯一の特徴なのです。
これは、部活動のみがもつ「教育」の可能性です。

しかしながら現状では、とんでもない矛盾が生じています。
それは、「自主的・自発的な活動」であるはずの部活動を生徒に義務付けたり、教員に職務として担わせたりするという矛盾です。

文科省が部活動を「自主的・自発的な活動」を学校教育の一環として位置づける一方、いくつもの学校で、児童・生徒が強制参加させられています。

部活動は、その唯一の教育的な存在価値である「自主的・自発的な活動」という教育的役割を失った状態で、今日に至っています。
部活動をめぐる現状を図にすると、以下のようになります。

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部活動が持つ本来の価値である「自主的・自発的活動である」という側面が失われている今、部活動が担っているのは、もはや十分に「外注」可能な教育内容だけであると言えます。

この現状が改善されないまま、「顧問」を職務として担当する教員はいっそうの多忙化にさらされ、子ども達もまた、実質的に義務化され加熱する部活動に苦しんでいるのです。

◆部活動に求められる役割と、その役割に期待する人々の思想

部活動の本来的な価値が失われることを顧みず、「部活動が副次的に達成可能な教育内容」を執拗に追い求めてきた思想は、立場を超え、様々な人々に共有されています。
このような思想に突き動かされて、部活動は戦後から現在まで隆盛してきました。

以下に、代表的なものを5点、紹介していきます。

〔1〕スポーツの国際大会での勝利を重視する人々の思想

「スポーツの国際大会で、日本の勝ち数を増やしたい。」
「そのためには、スポーツの能力が高い人材を育成する必要がある。」
「そうした人材育成を効率的に育成するために、学校にその役割を負わせる。」
「国際大会での勝利のために、運動部活動を大学で盛んにする。その下地をつくるために、小・中・高校の段階から、運動部活動を盛んにする。」

スポーツの国際大会での勝利のために部活動に期待を寄せてきた人々の思想は、以上のようなものです。

しかしながら、実際に国際大会で活躍している選手の多くは部活動で養成されているわけではなく、むしろ校外のスポーツクラブで専門的な指導を受け、選手になるケースが多くあります。
その意味では、小・中・高校での運動部活動は、あくまでも「期待」に応えるために存在しているという空しいものでもあります。
「期待」が実らなかった、という事例は枚挙に暇がありません。

また、ここでの部活動への期待は、最重要目標を「スポーツの国際大会での勝利」に置き、他の弊害を顧みない方針です。こうした「競技の論理」は、「教育」ではありません。

〔2〕子どもの体力増強を求める人々の思想

「運動部は体力増強に効果が見込める。ある程度の弊害の発生は仕方ないが、運動部を盛んにしていこう。」

この思想は、〔1〕で挙げた「スポーツの国際大会での勝利を重視する」思想と区別がつきにくいものです。
方向性としてはほぼ一致していますが、その理由の重点が「スポーツ競技における勝利」でなく「体力増強」にあるというのが相違点です。

〔3〕経済界の人々の思想

「自らを犠牲にして、進んで仕事や企業に献身する労働者を育成してもらいたい。」
「そのためにも、部活動で規律を教え込み、企業にとって使いやすい人材を育成する必要がある。これが、日本の経済発展に有効だ。」

〔4〕教育界の人々の思想

「部活動で、規律や規範を教え込む。これは、生徒の道徳教育として有効だ。」
「生徒の管理手段としての規則と、その違反者への懲罰による非行防止をしよう。」

〔5〕政界の人々の思想

「学校選択制(*)の中でいっそう存在感を高めるために、『各学校の特色』として部活動を利用しよう。」
「教員評価および教員採用試験において、部活動経験がプラスの評価を得られるようにしよう。」

(*)「学校選択制」……指定区域外の公立小・中学校への進学を、自由に選択できる制度。

政界の人々は、「部活動を学校で実施する必要性は明確ではない」ことを認めながら、慣習として部活動が実施されていることを正当化するために、部活指導に従事する教員への手当(いわゆる「部活動手当」)の保障を目指しました。

「部活動手当」の支給は一見、過重負担に陥っている教員を救う取り組みのように見えます。
しかし実際には、「なぜ教員は過重負担を抱えてしまうのか」といった根本的な問題や、本来的な「部活動」のあり方については検討されないままであり、問題解決が先送りされただけなのです。
また、最近になって文科省が「部活動手当」の数百円の増額を打ち出していますが、それもこの流れに沿ったものと言えます。

部活動に関する代表的な5つの思想は、部活動(特に運動部)の過熱化を願うという方向性が一致していたため、戦後、様々な弊害を顧みないまま、部活動を盛んにしてきたのです。

次に、統計を参照しながら、部活動の「顧問」を担当する教員の現状について紹介していきます。

◆「部活動をしたい」という教員と、「部活動を負担に思う」教員

下図によると、中学・高校教員のうち25%が「部活動の指導をしたいから」という理由で教員を志しています。

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ベネッセ教育総合研究所 愛知教育大学受託調査
教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト
特別プロジェクト 教員の魅力プロジェクト 2015年 より
赤枠内は筆者による

次に、「教員の仕事の悩み・不満」についての調査結果を示した図も見てみましょう。

「部活動・クラブ活動の指導が負担である」と回答した教員の割合は、中学・高校では6~7割に及んでいます。

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ベネッセ教育総合研究所 愛知教育大学受託調査
教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト
特別プロジェクト 教員の魅力プロジェクト 2015年 より
赤枠内は筆者による

これだけの割合の教員が部活動指導を負担であると感じている状況は、見過ごせないものです。
連載の第1回目に紹介した図にもある通り、「日本は課外活動(部活動)が(教員の)勤務時間に占める割合が多い」という実態が反映されているものと思われます。

また、やや古い調査になりますが、下図によると、92.4%の中学校教諭が部活動の顧問を担当しています。

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ベネッセ教育総合研究所 平成18年度文部科学省委託調査「教員勤務実態調査(小・中学校)」報告書 [2006年]を参照して筆者が作成

この実態と、インターネット上で湧き上がる教員の悲鳴を合わせてみると、事実上、望まない教員に顧問就任が強制されているという惨状が伺えます。

◆教員が抱え込む、部活動への負担

下図を見るとわかるように、部活動の顧問をはじめ、教員が様々な業務を抱えて多忙を極める中、「子どもの話や訴えを十分に聴く余裕がない」という教員は6割に上っています。
保護者の立場からすれば、精神的にゆとりのない教員に安心してわが子を預けるというのも、難しいことでしょう。

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WellLink『文部科学省委託・新教育システム開発プログラム 調査結果を紹介。
「教師の“うつ”一般企業の3倍」教員のメンタルヘルスの現状』(2008)pp.4より引用。
赤丸は筆者による。

全ての子どもを尊重し、それぞれに丁寧に応対するといったことは、教育現場で本来達成されていなければならないことのはずです。
教員の過重負担を少しでも軽くすることは、ひいては子ども達のためにも、不可欠なことなのです。

今回は、部活動に様々な役割を求めてきた5つの思想と、現在の顧問の過重負担について紹介しました。
次回は、部活動における「顧問」と「指導者」の役割の違いについて紹介します。

⇒記事を読む:教員の多忙さと部活動の関係について(最終回):部活動が必要としているのは「顧問」?「指導者」?

【参照】
・ベネッセ教育総合研究所(2015)『愛知教育大学受託調査  教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト 特別プロジェクト 教員の魅力プロジェクト』{最終閲覧日 2016.9.15}
・ベネッセ教育総合研究所(2006)『平成18年度文部科学省委託調査「教員勤務実態調査(小・中学校)」報告書 [2006年]』{最終閲覧日 2016.9.15}
・神谷拓(2015)『運動部活動の教育学入門』大修館書店
・WellLink(2008)『文部科学省委託・新教育システム開発プログラム 調査結果を紹介。「教師の“うつ”一般企業の3倍」教員のメンタルヘルスの現状』{最終閲覧日 2016.9.15}

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