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前回のブログでは、所得水準が学力に影響を与えることを書きましたが、今回は、この問題の解決に取り組むNPOや自治体について紹介したいと思います。

【前回の記事】
家庭環境と教育 (1/2) :所得と学力の相関関係を読み解く (田口 充樹=文)


【NPOによる教育支援—無料塾】

貧困世帯や家庭環境に問題のある子供の教育をサポートする取り組みとして、無料塾があります。無料塾は、主にNPOやボランティアによって運営されており、主に小・中学校生を対象に学校での勉強内容について教えることを目的としています。

家庭環境に何らかの問題を抱える生徒は、塾代を払う経済的余裕がないことが多いので、無料塾の存在は彼らの学力向上の助けになっています。

例えば、2007年に設立されたNPO法人キッズドアは、経済的に苦しい家庭や被災地で暮らす子供を対象にして学習サポートを実施しており、卒業生の中には有名大学に合格した人もいます。

多くの無料塾は、子どもの教育に興味がある市民活動をしている人や、学生ボランティアの手によって運営されています。無料塾ですので、基本的に塾の運営協力者に賃金は支払われません。
また、無料塾の取り組みは「子どもの学力を向上させる」といった一般的なものばかりではありません。「家庭内に居場所がない」「親が夜遅くまで帰ってこない」といった家庭状況にある子どもが、大人や同年代の仲間と過ごす「居場所」として機能しているという側面もあります。

このような取り組みは、低所得世帯の子供が十分な教育を受けることができないために、将来的に貧困に陥るという「貧困の連鎖」を断ち切るために重要であると言えます。

【無料塾が直面する厳しい課題—不足する人員と財源】

無料塾を運営する上で困難となるのは資金運営と人員確保です。

無料塾では生徒から授業料を徴収しないので、基本的には寄付金や自治体からの補助金に依存しています。
また、無料塾の運営がボランティアに支えられている以上、人手不足でも「有志を募集する」以上の採用活動もできませんし、決められたシフトでボランティアを拘束するというのも困難です。
このような問題が生じている一方で、自治体は、こうした教育支援に対して十分な予算や人員を割けていないのが現状です。

【データで見る 自治体における無料塾の現状】

NPO法人さいたまユースサポートネットは、2015年9月~10月の間、全国の福祉事務所を設置する自治体(479団体)と生活困窮者自立支援法(以下、生困法)(※2)(以下、生困法)に基づく学習支援事業受託団体(98団体)の合計577団体を対象に、「生活困窮者自立支援に基づく学習支援事業」をテーマに大規模アンケート調査を実施しています。(※3)

このアンケート実施によって、各自治体における無料塾などの学習支援の実態が明らかになりました。

(※2)生活困窮者自立支援法(本文)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25HO105.html
(※3)NPO法人さいたまユースサポートネット『「生活困窮者自立支援法に基づく学習支援事業に関する調査」結果のお知らせ』(プレスリリース)

以下の2つの図は、このアンケート結果をグラフ化したものです。

Q. 生活困窮者自立支援法施行後の生活困窮家庭の子どもを対象とした学習支援の実施状況について、あてはまるものを1つお選びください。【回答総数=479】

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(出典:NPO法人さいたまユースネット)

上の図は、全国の自治体における学習支援の実施状況を示したグラフです。
これを見ると、生困法が施行された後の学習支援状況においても、約半数の自治体(45.3%)は学習支援を実施していないことが分かります。

生活困窮家庭の子どもへの教育の重要性は認知されているものの、教育支援が行き届いていないのが現状なのです。

では次に、各自治体で学習支援が実施されていない理由の内訳を見てみましょう。

Q. 実施状況について「以前は実施していたが、現在は実施していない」、
「実施する予定はない」と回答された場合、その理由についてお選びください。(複数回答)【回答総数=220】

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(出典:NPO法人さいたまユースネット)

「実施するための人員や団体が不足しているから」が最大の64.5%で、次いで「財源がないから」が45.5%となっています。
この結果からも、子どもへの教育支援を行う団体および人員の不足、財源の確保が、実際に地方自治体にとって大きな課題になっていることが分かります。


【無料塾運営の財源・人員の確保は教育格差是正の第一歩】

学歴の高低が社会的な成功につながりやすい現代では、生活困窮家庭の子どもは、十分な教育を受けることができない為に、将来的に得る所得が下がってしまう傾向にあります。そして、こうした子どもの子弟もまた、生活が困窮であるゆえに教育を十分に受けることができないという「負の連鎖」が生み出されてしまう可能性があります。

この連鎖を断ち切るためにも、無料塾などの取り組みが一層推進されるべきです。
しかし、今回ご紹介したように、無料塾は財源不足や人員不足といった厳しい現状にさらされています。
これからも、無料塾のニーズは高まりつづけると考えられます。自治体・国は連携をとり、こうした問題の克服に取り組む必要があるでしょう。

田口 充樹(たぐち みつき)
神戸大学大学院国際協力研究科 修士2年
ミテモ株式会社 2030年職員室をデザインするプロジェクト学生インターン

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