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内田良先生と長沼豊先生の対談全3回・前回の記事はこちら

【学校で起きている問題の背景3-「自主的」な活動とみなされる部活動】

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内田 部活動の理想と現実という点で,象徴的だと思うのが、部活動っていうのは理想というか原理としては,子どもにとっても先生にとっても「自主的な活動」のはずなんですよね。その自主的なものが、実は強制的なものになっていて、平日だけならまだしも、土日までって。

―― 非常に厄介ですよね。もし仕事であれば、残業になるのでそれに対して給料を払うとか、色々な話がついて回ると思うんですが、 それが自主的になることで余計しんどさがあります。

長沼 グレーゾーンだからでしょうね。教育課程外といっておきながら、実質仕事になっているってわけでしょう。で、残業手当も出ませんよね。 これが教育課程の中だったら教育委員会も規制をかけやすいんだけれども、 「いや、自主的にやっていますよ」 と言ってしまえば、教育委員会にも責任がない。そうすると誰の責任になるのかっていうことで。これはもう先生方かわいそうですよ。

―― 非常に厄介ですよね。問題が起きたときに誰がそれを責任もって変えるのかっていうのもはっきりしていないわけですから。

内田 特別活動は学校の中で周辺的な位置付けになると思うんですけれども、やっぱりそうなってくると、国や教育委員会からの規制、コントロールっていうのはかけられにくいものなんですかね。
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長沼 まぁそうでしょうね。やっぱり教科の学習っていうのは指導要領でも、何年生で何を教えるかとか、漢字の表とかを見ればわかるようにきっちり決まっていますよね。それに比べれば特別活動は割と緩やかですよね。教科書も使わないし。 もっと言えば、部活動は教育活動の外だと言えば、規制がかけにくいというのも文科省の本音だと思います。実際文科省の役人はそう言っています。

内田 そうすると新たなシステム作りということも、なかなか行政にはやりにくいってことですか。

長沼 難しいかもしれませんね。 通知を出してほしいっていう要望は出していますけどね。せいぜい指導要領に何か書けるかもしれない、あるいは解説にも何か書けるかもしれないけどね。 それでもやるのは結局現場ですから。

【学校で起きている問題の背景4-「生徒のために」自分のうけた「よい部活動」がそのまま再生産される仕組み】

―― 私の印象では、教員って、聖職のような色彩を帯びた職業だなと思っています。サラリーマンであれば、 時間外の労働に対してまだノーと言いやすいんですけれども、学校の教員って、生徒はもちろん保護者からも期待を受けていますし、教員自身も、そういったメンタルモデルを持っていそうです。結果、働きすぎてしまう傾向があるのかなと。

長沼 真面目な人が多いから。もっとその点は不真面目になってというか、そんな仕組み、環境、雰囲気が必要ですよね。

内田 「部活動がいやだ」って言うと、先生として失格かのようなね。「子どものこと嫌い」と言っているような。でもやっぱり教育者である以前に労働者であるという前提にたたないといけなくって、労働者として教育というサービスを担っていると考えるべきです。そうしないと, 先生たちが土日も子どものためという名のもとに働きづめで、潰れてしまいます。

長沼 教員っていう仕事が独特なのは、自分が子どものときに受けて良かったことを大人になってからそのままやろうとする。 だから部活動で良い思いをした人は部活動を頑張るんですよ。スポ根が良かった人はスポ根指導を良いと思っています。これを「教員の指導の再生産」と呼んでいます。

内田 部活動の場合に再生産の傾向に拍車がかかってしまうのは、外からのコントロールやフィードバックが働かないからなんですよね。例えば教科だと、新しい教え方、新しい知識が入ってきて、10年ごとに変わるわけですよね。でも部活動ってだれも新しい何かを出すことがない、だからずっと経験則だけで続けていく、スポ根が再生産される背景があります。

長沼 スポーツ科学が大事だと言われて、プロはきっちりやってるのに、未だに部活動がスポ根だっていうのは…。結局そこに原因があるんですかね。

内田 だからやっぱり行政の手が入りにくいことが改革を遅くするところですよね。

【生徒に向き合う時間とは何か】

―― 教員って、部活動に限らず非常に多忙ですよね。例えば生徒と向き合う時間をたくさん取りたいのに、それが十分に取れていないという現実があります。

長沼 事務仕事もしないといけない、家庭との連絡も密にとらなきゃいけない、地域社会で総合学習もしないといけない。だから業務量は相当に増えていますよね。正規の仕事をとってみてもその中身が多様化もしているし量も増えています。
子どもと向き合う時間としては、まず授業ですよね。あとは部活動にいけば、子どもと向き合えるんですよ。人間的な付き合いも出来ますしね。事務作業するよりそっちの方が楽しいんですよ。だからますますエスカレートする。部活動が好きな先生は、「部活動は生徒指導の場です」というんです。だからこそまた抜け出しにくいというね。

内田 だからって朝も晩も土日も向き合うべきかっていうのが本当は問われないといけないんでしょうけどね。

長沼 真面目な先生は、自分が生徒指導やって成長発達を促そうとかんがえます。でも、自分一人が生徒を育てるんじゃないよと、家庭や地域や他の先生も含めてシェアしようという考えを持たないと、抱えすぎちゃいますよね。

内田 子どもには部活動で向き合えるんですが、授業準備する時間がないっていうのを、先生方は言っているんです。土日と放課後に部活動をやっていたら、いつ授業準備をするんだと。
先生にとっては授業こそが中心的な業務ですから、それが部活動によって奪われるというのは本末転倒というかまったく比重がおかしい話なので。

長沼 そのような趣旨のことを以前にTwitterでつぶやいたら、ある現場の先生から、「いや、部活動がない日でも授業準備をする時間がなかなかとれない」といわれました。部活動も要因なんだけれど、それ以外にも様々な構造的な問題もあるのかもしれません。

次回で、いよいよ最終回です。最終回を読む

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