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9月7日(水)、教師としての体験をもとに「教育現場のリアル」を描いた漫画『静寂の音』の作者である「教育問題漫画家」眞蔵修平先生に、ご自身の経験についてインタビューをさせていただきました。

インタビューでは、眞蔵先生が教師時代に被害にあった暴行事件、教員を退職後に就職したブラック企業での体験、「超」職員室会議2016に期待することなどをお聞きしました。

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ゲスト:眞蔵 修平(まくら しゅうへい)
1981年生まれ、兵庫県出身。数学教師として公立中学校に勤務していたが、校内暴力・授業崩壊などの経験からうつ病を患い、退職。その後、楽器店で営業職に携わるが、こちらでも「ブラック」な労働環境に直面する。のち、自身の教師としての経験を活かし、「社会の闇」に光を当てる漫画家としてデビュー。自身のホームページにて、自身の経験を基にした漫画『静寂の音』を発表している。

聞き手:田口 充樹

【「荒れた学校」への不十分な対応】

―――眞蔵先生の漫画『静寂の音』を拝読しました。作中には、主人公の教師が生徒から暴行を受けても、学校や自治体から協力を得られないシーンがあります。実際の教育現場でも、そのような事態が起きているのでしょうか?

眞蔵先生 学校によっては、「授業が成立しないのも、(生徒による)対教師暴力にしても、教師個人の責任である」と捉えられるので、そういう環境の場合は協力を求めることは難しいと思います。もちろん、自治体によっては、学級崩壊や生徒による暴力事件が起きた時に、専門の生徒指導の先生やスクールカウンセラーが対応することはありますが、都道府県によっては、教育に予算が割けないので、そうした取り組み自体ができない自治体もあります。私自身は「生徒の面倒は、学校全体で見るべき」と思うのですが、私が赴任した学校は「生徒の面倒は、担当教師が見るべき」という考えが強かったですね。

―――厳しい状況ですね。いわゆる「荒れた学校」に赴任することになった場合、先生のみにその責任を求めるのは、あまりにも過酷すぎると思います。

眞蔵先生 それに、「荒れた学校」の先生は様々な問題の対応で忙殺されています。だから、他のクラスが学級崩壊をしても、自分のことで精一杯なので、みんな他の先生を助ける余裕がないんですよ。

―――眞蔵先生も、問題児から集団暴力を受けたうえ、授業崩壊も経験したとお聞きしました。その際も、他の先生からの協力やサポートなどは無かったのですか?

眞蔵先生 基本的に無かったです。漫画(『静寂の音』)でも描きましたが、生徒が教師に暴力を振るったとしても、学校としては被害届を警察に出したくないんですよ。それに、公立中学校には退学も停学もないでしょう?不良生徒は何事も無かったかのように登校するので、学校としても「うまくやってくれよ」という感じで(笑)。

―――「うまくやってくれよ」ですか(笑)。本当に、そんな対応だったのですか?

眞蔵先生 一応、「授業に行く時は、隣のクラスの先生と一緒に行くようにして」と、一人にならないように配慮はしてもらえました。けど、隣のクラスの先生も忙しいので、実際には一人で授業に行くことがありましたね。そういうわけで、学校からは「一人で行動をしないで」と言われただけで、学校から具体的なサポートなどはしてもらっていませんでした。

【生徒から暴行を受けても、自治体からは対策はなし】

―――学校の先生からの協力が得られないのであれば、自治体や教育委員会に協力をお願いすることは無かったのですか?

眞蔵先生 それが、私の暴行事件は教育委員会には報告されていないんですよ。学校側が、その事実を隠蔽したんです。私は警察に被害届を提出しましたけど、その事実を教育委員会は知らないはずです。あと、若かったのもあって、自分が教育委員会に訴える度胸もありませんでしたね。

【理想とは違った教員生活】

―――『静寂の音』には、「生徒指導の先生が、問題児の家へ家庭訪問に行くと、暴力団関係者の父親から日本刀を突き付けられ、追い返される」という衝撃的なシーンがあります。このようなことは、実際に体験されたのですか?

眞蔵先生 生徒指導の先生が日本刀を突き付けられたというのは本当です。作中には、「自分の子どもを少年院に入院させたい」と親が言うシーンがありますが、あれも実話です。そのような教育観を強く持っている親なので、全く話が通じないんですよ。

―――過酷な教師生活を過ごされたんですね。そもそも、教師を志したきっかけは何だったのでしょうか?

眞蔵先生 私も、他の多くの教師を志す人と同じように、「教師」という職業に憧れがあり、自分が受けた良い教育を他の人に広めたいと思っただけですよ。小学生がプロ野球選手に憧れて、野球を始めるのと同じです。

―――しかし、まさか自分が「荒れた学校」の教師になるとは、思ってもみなかったでしょう?

眞蔵先生 小・中・高校と恵まれた学校環境にいたので、いわゆる「不良」と呼ばれる生徒には社会人になって初めて出会いましたね。よくある学園ドラマで、問題児が改心して先生と素敵な思い出を作るじゃないですか?まぁ、そういうことは現実的にはほとんどない。実際の問題児を更生させるには、もっと長い時間とサポートが必要だと思います。教育って、そんなに簡単なものじゃないんですよ。

【教員を退職して、ブラック企業に就職】

―――過酷な教師生活を経て、楽器店に就職されていますよね。どうして、楽器店に就職しようと思ったのですか?

眞蔵先生 学生時代にバンド活動をしていて、単純に楽器に興味があったからです。けど、就職先はクラシックピアノを販売していて、バンド時代に得た知識は何の役にも立たなかった(笑)。しかも、そこは結構なブラック企業だったので、年間休日は60日しかなくて、毎日恫喝されていましたね。教員を退職後に、やっとうつ病が治りかけていた私にとっては、過酷な仕事場でした。

―――そうしたブラックな労働環境から逃げ出そうとは思わなかったのですか?

眞蔵先生 当時はSNSが普及していないのもあって、「自分の労働環境が、どれくらいブラックであるか」を比較する対象がなかったんですよね。情報源がないんですよ。社会人の友人と仕事の愚痴を話していると、「みんな、自分と一緒でしんどいのか」と納得してしまって。だから、「転職しよう」という考えには、すぐに至らなかったです。結局、ブラック企業も教育現場も、同じ問題に直面しているんですよね。まず1つ目は、「弱者を救済するシステム」が存在しないこと。2つ目は、職場が閉鎖的すぎるために、過酷な労働環境が当たり前であると、職場にいる人が信じてしまうことです。

―――それこそ、「上司の常識は世間の常識」なんていう言葉のようです。

眞蔵先生 弱者を救済するシステムが存在しないこと、閉鎖的ゆえにブラックな労働環境であることは、「社会全体の問題」です。そういう意味では、「教育現場を変える」と同時に、「社会全体を変える」必要があるんです。例えば、ある生徒が良い教育を受けてもブラックな職場に就職することになれば、その生徒は自分の能力を発揮することができませんよね。だから、良い教育だけをしても、良い労働環境を整備しないと、社会全体としてうまく機能しない。こうした思いを社会に伝えて、社会全体を変えたいと考えて、漫画を描いています。

【漫画を通じて、社会を変えたい】

―――その思いを発信する手段として、眞蔵先生が漫画を選んだのはなぜですか? もともと、漫画家になろうと考えていたのですか?

眞蔵先生 まず、教師生活と楽器店の営業を経て人間関係に疲れきっていたので、「一人でできる仕事」をしようと決めました。そこで、「そういえば中学時代に、自分が描いた漫画は結構友達に褒められてたなぁ」と思い出して、それに賭けてみようって思ったんです。「漫画家になる!」と決めたというよりは、とにかく一人になるために、すがれるものが漫画しかなかった。そういうわけで、本格的に漫画を描き始めたのは、27歳からです。

―――漫画家になった当初から、「教育現場のリアル」について描こうと思っていたのですか?

眞蔵先生 いや、最初は、ベタにバトル物とかを描いていました。その内「自分の教師としての体験談を話すと周りが興味津々で聞いてくれる」ということに気づいて、「もしかして、自分の教師生活は、漫画にすると面白いのか?」と考えるようになりました。それから、「教育現場のリアル」を題材にした漫画を描き始めましたね。

【漫画家としての新しい働き方】

―――漫画家には、週刊誌に掲載するために死ぬ気で原稿を描いているというイメージがあります。しかし、眞蔵先生はインターネット上でご自身の作品を発表されたり、ミテモでも漫画家として活動されたり、従来の漫画家とは異なる働き方をしているように思えます。このようなキャリアを選択されたきっかけは何だったのですか?

眞蔵先生 当初は、連載を持つ先生のアシスタントをしていました。でも、その先生の職場がまたしてもブラックで(笑)。「おまえが、この世界で成功できないようにしてやる」と言われたので、「それなら、こっちから辞めてやろう」と思いました。今の時代であれば、自分で漫画を電子書籍化して、発表することだってできますし、むしろ1つの職業に依存する方がリスクは高いと思うんです。

【「超」職員会議2016への期待】

―――教員を目指す学生にとっても、眞蔵先生の体験は非常に興味深いものだと思います。なぜ、眞蔵先生が体験されたような教育現場の実態が、世間に認知されないのでしょうか?

眞蔵先生 一般的に、教育現場は閉鎖的なので、問題が起きても明るみに出ることが少ないのかも知れません。そういう意味で、今回の「『超』職員会議2016」は、現職の教員のほか教員志望の大学生、自治体関係者、議員など様々な立場の人が、教育現場についてオープンに議論できる貴重な場になると思います。私の実感として、学校の先生は学校外の人と話す機会が少ないので、「『超』職員会議2016」が「教育現場について自由に話せる場」になればと思いますね。

★9月25日(日)20時頃、眞蔵修平先生のホームページにて『静寂の音』第2話が発表されます!ぜひ、ご覧ください。

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